とある春の日/猫八太郎様
会社からの帰り道でばったり会った二人。
涼しい顔して「あら」「おお」だなんて言いながら、なんとなく共に歩きはじめた。
満開の桜の木々。
春の日の夜道は、少し幻想的だ。
「九能財閥の御曹司が徒歩で帰宅なの?」
「迎えの車が来ていたのだがな」
車の窓からおさげの女らしき美少女を発見して、
居ても立っても居られなくて追いかけたのだという。
「へぇ。で、見つかったの?」
「いや、それが。腹立たしいことに早乙女乱馬と遭遇してな。揉めているうちに見失ったのだ」
「乱馬君、あかねと一緒だったでしょ?」
「男女二人きりで夜桜とは、けしからん」
「あら、あたし達だってそうじゃない?」
「帰る方向が同じだけだ」
「まぁね」
「で、お前はこんな時間まで残業か?」
「残業なんてくだらないことしないわよ。ただ。会社の花見の後に個人的に食事に誘われたのよ」
なびきは疲れたと大袈裟に肩をまわしながら、ため息をつく。
「うちの重役のジュニアなんだけどさ。桜の見えるレストランまで予約してくれてるって言うし。
名の知れてるレストランだから、奢ってもらって得したけどね」
「お前の事を、よく分かってるじゃないか」
「全然よ。貸しきりレストランで唐突に『愛してる』とか言われても冗談じゃないわ」
将来有望そうな金持ちからの求婚を、即座に撥ね退けたらしい彼女は
なんだか、せいせいとした顔をしている。乙女心はよく分からないものだ。
てくてくと夜道を歩きながら、公園の前で九能はふと立ち止まる。
「ここも、桜だったか。見事だ」
「あら、知らなかった?」
「桜の木というのは不思議なものだな」
いつだって気がつかず通り過ぎてしまう日常の風景が
桜の花が咲くだけで、瞬く間に目を奪われてしまう非日常の風景に変わるのだ。
「九能ちゃんって、ロマンチストよね」
「天道なびき。お前は、いつだってリアリストだな」
「そんなこと無いわよ」
不意に微笑んでみせた彼女は、あまりにも無防備で、あまりにも美しかった。
とある春の日
一瞬の幻想
猫八太郎様から、九なびSSを頂きました♪
桜と九能となびき…なんだか風流でとってもぴったりな組み合わせだと思いませんかv
情景が目に浮かぶようです。
最後の二人のやりとりにものすごくドキっとさせられました。
なびきの、そういう表情を見てしまった(幻想?)九能センパイがどういう態度に出るのか…すごーく気になります。
いつも猫八太郎さんのSSは続きが気になってしまうんですよね〜v
猫八太郎様、ありがとうございました!