恒例行事/猫八太郎様

「来年は、フランスね」
「勝手なことを言うな、天道なびき」
「パスポート、用意しておきなさいよ。九能ちゃん」

3月14日の恒例行事。
高校の頃からだから、もう3回目になる。
ただしチョコレートを頂戴したのは最初の1回だけで。
「だって九能ちゃんがいけないのよ?」
彼女はしれっと言うだろう。

3年前のあの日、天道なびきとの約束へ向かう途中に、おさげの女を発見して。
ついつい追いかけてしまった帯刀は、
よく分からない騒動に巻き込まれてしまったのである。
そして数時間後、ボロボロになったジャケットを片手に
レストランに辿り着いた時には、食事を終えた彼女が悠然と出てくるところだった。
「はい、どうぞ」
手渡されたのは予想を越えた高額な領収書。
「サービスは抜群だったけど、料理は『まあまあ』だったわ」
「そうか」
アベックだらけのこの場所で、
一人きりでも優雅に食事をしてみせたらしい彼女を
店内の男性客たちが、自分達のお相手を差し置いて見つめている。
男達の視線を気にするでもなく、彼女は満足げに微笑んでみせた。
「九能ちゃん、謝んなくていいわよ」
土下座でもして謝ろうとしていた帯刀に、なびきは言う。
「また来年、銀座のディナーで手を打ちましょ」
前から行きたかったのよねと言い放った店名は、これまた凄く高級なレストランであったのだけれど。
「まあ、いいだろう。今度は完璧にエスコートしてみせるぞ、覚悟しておけ天道なびき」
「望むところよ」
それはまるで『果し合い』のように。
恒例行事は開始されたのである。


猫八太郎様から、「つづく?」の続編SSを頂いてしまいました♪
想像もしなかった展開に驚きました。
この二人、どうなるかがまったく予想つかなくて、本当に素敵なカプですね。
もともと好きな二人ではあったのですが、猫八太郎さまから頂くSSを読む度どんどん好きになっていってしまいます。
猫八太郎様、ありがとうございました!